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最高裁判所第三小法廷 昭和61年(あ)1305号 決定

本籍・住居

京都市伏見区中島堀端町四一番地

農業

山本壽

昭和三年八月二三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和六一年一〇月一五日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山本淳夫の上告趣意書は、違憲(三八条三項違反)をいう点を含め、すべてその実質は事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島敦)

○上告趣意書

昭和六一年(あ)第一三〇五号

所得税法違反上告被告事件

上告人 山本壽

右上告人の前記刑事被告人事件に関する上告の趣旨は左のとおりである。

昭和六一年一二月一五日

弁護士 山本淳夫

最高裁判所第三小法廷 御中

控訴審の判決は破棄されるべきである。その理由は以下の通りである。

一、上告人には本件につき故意がなく無罪である。

〔理由一〕昭和五五年一二月、鈴木、長谷部、渡守は大阪国税局同和対策室長と会談し、昭和四三年の解放同盟と大阪国税局(高木局長)との確認事項を巡って話し合い、

1.窓口一本化

2.解放同盟と同じ取扱いをする事

3.青色、白色申告を問わず全日本同和会の申告を尊重する事

の三点を確認し、京都の筆頭税務署である上京税務署副署長と同年一二月二〇日会い全日本同和会の申告については総務課長扱いとするその話し合いがなされたこと

〔理由二〕全日本同和会は個別事件について担当職員と事前に相談をし知恵を授けられ大体架空領収書又は架空債務負担行為によって辻棲合わせを教えられて有限会社同和産業、株式会社ワールドとの架空債務作出の受皿会社の設立によって起訴状記載の如き方法で右京税務署だけで一〇〇件以上あったわけである。

彼等が前記確認事項によってすべて政府機関によって認められていると信じていたが故に同一類型の所得申告がなされてきた事は言を俟たない。

〔理由三〕全日本同和会自体が適法な申告であると考えていたのであるからその部外者である上告人は具体的方法にも申告にも関知せず玉田善治を介しての鈴木元動丸よりの「全日本同和会に頼めば安くなる。おっさんは世話になっているからいってやれ」という言葉を信じ依頼しただけであっていかなる方法で税務申告をするのかは全く関知していないものである。仮に上告人は鈴木等の申告のやり方が違法であるということを知っていれば断じてかかる不正申告はしなかった。故に脱税の故意はないことは明白である。

二、本件は上告人が昭和五六年一〇月頃上告人所有の伏見区中島堀端町四一の土地を丸元観光開発株式会社(代表取締役玉田善治・取締役鈴木元動丸・監査役長谷部純夫)のバス置場に貸してやりその間現在にいたる迄事業資金として二〇〇〇萬円程融資をして陰になり日向になって力になって来た関係で鈴木が恩返しをしたいという気持で玉田に対し「おっさんに税金のことならうちの同和会を通してやれば安くなるというてやれ」といったので玉田は上告人に伝言し上告人は昭和五七年度、昭和五八年度の申告を同和会に委せたものである。

昭和五八年五月九日上告人は伏見区中島外山町二〇の土地四〇〇坪を孫仲奎に金三〇七〇〇萬円也で譲渡したところ鈴木は前記の如き申出を玉田を通じて上告人にしたところ上告人は「別の土地を買うから税金はかからんと思う」と断った。その後上告人は昭和六〇年三月の申告期が近づいたところで上告人は玉田に税の申告を鈴木に頼んだものである。然し上告人は本件起訴にかかるが如き脱税を依頼した覚えはなく、合法的に節税してもらう意思で依頼したものである。上告人は税の申告時期(三月一六日)がすぎても税の申告の控えも同和会よりこなし亦どのようになっているかもわからないうちに昭和六〇年五月一〇日鈴木が逮捕されたものである。

結局上告人は全日本同和会が上告人に代って申告をしたのか亦いかなる内容の申告をしたかも知らず本件脱税事件に巻き込まれてしまったのである。この事実は上告人の供述調書その他の関係者の供述調書上の各供述によっても明らかである。上告人が全日本同和会のなした申告書を見た上でかかる事件にまきこまれたのなら上告人の故意を認定するのも肯定しうるが、全く申告したことすらしらない(申告書上の署名は上告人の自書によるものでないし印影も上告人の所持する印鑑によるものではない)。上告人に有罪判決を付するのは暴挙としかいいようがなくかかる認定は憲法第三八条第三項に違反し「疑わしきは罰せず」の刑法の精神に反するものである。

三、本件は本来起訴されるべきケースではなく強力な権限を持つ税務当局の行政指導によってその事件を正当な方向に指導し得たものであるに拘らず全日本同和会の鈴木、長谷部、渡守等が自ら事件を否認したことによって検察当局の恣意により無理に積み込まれた事件である。

かかる状況からみると、上告人は故意もなく起訴状記載の如き共謀による共同正犯とも言い難いものであるから無罪である。

四、上告人は昭和六〇年九月二〇日修正申告し昭和六〇年一〇月二日四三〇〇萬円也を伏見税務署に納付済みであり国家に対する義務は全て果している。

五、以上の見地から控訴審が上告人に対してなした判決には事実誤認があり事実を素直にみていくと本件は無罪であることは明らかであり、控訴審判決は破棄されるべきである。

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